前置胎盤
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妊娠は、多くの人にとって嬉しい出来事ですが、リスクの伴う出来事でもあります。妊娠に伴うリスクの1つが前置胎盤であり、これによって出血してしまう等の危険性があります。
しかしながら、現代の日本では、医療技術の向上等によって、前置胎盤であっても母子ともに無事に出産を迎えることが可能になっています。検査やリスク管理、出産時の処置等がすべて問題なく行われることによって、安全を確保する必要があるでしょう。
ここでは、前置胎盤について解説します。
前置胎盤の病態
前置胎盤とは、胎盤が通常よりも子宮の出口に近い位置に付着して、子宮の出口(内子宮口)の一部または全部を塞いでしまった状態のことです。内子宮口のほぼ全体を塞いでいるものを「全前置胎盤」、一部を塞いでいるものを「部分前置胎盤」、内子宮口と胎盤の距離がほとんど0cmであるものを「辺縁前置胎盤」と呼びます。
前置胎盤の影響
前置胎盤によって出血することがあります。これは、少量の出血だけで終わる場合もありますが、大量出血の前兆であるおそれもあるため、入院して経過を管理する必要が生じることもあるでしょう。
また、前置胎盤の一部は癒着胎盤を合併します。通常の胎盤であれば、出産の後で自然と子宮から剥がれて体外に排出されますが、前置胎盤と癒着胎盤を併発する前置癒着胎盤は簡単に剥がれず、大量出血のリスクがあるため、子宮全摘出を行うケースもあります。
前置胎盤による出血
前置胎盤である場合には、性器からの出血が生じることがあります。これは、子宮の収縮等の影響で胎盤の一部が剥がれてしまい、血液が体外に流れ出すことによって起こります。この出血は痛みを伴わないことが多いのですが、後で大量出血が起こる場合があり、警告出血と呼ばれています。警告出血が起こったら、すぐに産婦人科を受診する必要があります。
また、前置癒着胎盤によって出血すると、大量出血のリスクが高くなってしまいます。これは、内子宮口に近い部分では子宮の筋肉が比較的薄いため、子宮の収縮による止血効果が弱く、血が止まりにくいからです。そこで、事前に自己血を採取して輸血に備えたり、バルーンで子宮に血液を送っている血管を塞いだりします。場合によっては、事前に了承を得て、子宮を全摘出するケースもあります。
前置胎盤の死亡率
近年では、日本の妊産婦が亡くなる例は年間で40~60件程度となっており、前置胎盤も含めて、妊産婦が死亡に至るリスクは極めて低くなっています。
他方で、後述する裁判例のように、前置胎盤の早期剥離によって母体から胎児に対する酸素供給が減少し、新生児仮死の状態になるおそれもあります。
前置胎盤への対処
妊娠の初期や中期に前置胎盤が判明しても、自然に治る可能性があるため、経過観察を行うケースが多いです。ただし、大量出血のリスクがあることから、安静にするべきであり、場合によっては入院管理が必要になります。
妊娠の終盤でも前置胎盤であるときには、大半の場合において帝王切開を行います。このとき、胎児が完全に成長していない場合もあるため、未成熟児に対応できる病院で出産する必要があります。
前置胎盤に関する裁判例
前置胎盤が治らず、出産が帝王切開によるものになるとしても、胎児はなるべく母体の中で成長させた方がリスクは少なくなります。そこで、緊急事態が生じた場合を除き、妊娠37週の前後までは胎児が成長するのを待つことが多いです。しかし、母体や胎児の状態によっては、いつでも帝王切開を行えるように準備しておき、必要が生じれば施行を決定する必要があります。
国立病院において子供が重症の新生児仮死の状態で出生し、脳に重度の後遺障害を負った事案において、辺縁前置胎盤であることを医師が事前に確認しており、母体から出血したことも認識していたにもかかわらず、分娩管理において助産師と十分な連携態勢を敷くべき注意義務を怠ったことや、胎児が酸素欠乏症の状態にあることを疑うべき徴候を把握することなく、帝王切開術を施行する時機を失したこと等から、医師に過失があったと認定しました。そして、後遺障害を負った子に対する慰謝料として1500万円、両親に対する慰謝料として各1000万円等、合計しておよそ7000万円の請求を認容しました(浦和地方裁判所 平成8年2月28日判決)。
この記事の監修
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