羊水塞栓症
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出産のときに命を落としてしまう女性は、残念ながら、医療技術が発達した現代の日本でも存在します。そのような不幸な出来事が起こってしまう要因の1つとして、羊水塞栓症が挙げられます。羊水塞栓症は、妊婦の血液に羊水が入ってしまうことにより発症する疾患であり、妊婦の血液に羊水が入ってしまう原因として帝王切開等が挙げられます。
羊水塞栓症を確実に予防する方法は現在でも存在しておらず、とても厄介な疾患です。しかし、適切な処置を迅速に行えば、命を落とすリスクを下げることは可能です。
ここでは、羊水塞栓症について解説します。
羊水塞栓症とは
羊水塞栓症とは、母体の血中に羊水や胎児成分が入ってしまうことにより、物理的塞栓を生じたりアナフィラキシーのような症状を引き起こしたりする疾患をいいます。羊水塞栓症は、数万件の出産につき1件しか発生しないとされていますが、高齢出産が増加していること等もあり実際の頻度はより高くなっているともいわれています。また、羊水塞栓症の死亡率は高く、危険な疾患といえます。
羊水塞栓症の症状
羊水塞栓症を発症すると、胸痛、呼吸困難、意識消失、痙攣、性器出血(大量出血)等の症状を生じます。
例えば、心肺虚脱型の症状では、血流が遮られた影響で胸の痛みや血圧低下、呼吸困難、チアノーゼ、痙攣発作等の症状が発生します。これらを発症すると、急激に悪化して重篤な疾患になることがあります。
また、DIC先行型の症状では、母体の血管内で羊水に対するアナフィラキシーのような反応が起こり、それによってDICが発生します。DICとは播種性血管内凝固症候群のことであり、全身の血液が多発的に凝固して血栓が生じてしまう疾患です。DICの影響によって血液を凝固させるための成分が消費されてしまうことから、子宮等からほとんど固まっていない血液が大量に流れ出してしまい、出血性ショックを起こしてしまいます。
羊水塞栓症の原因
羊水塞栓症は、子宮の損傷等によって血管も傷付き、そこから羊水や羊水に含まれている胎児由来の成分(胎脂や胎便等)が流入することが原因と考えられています。
羊水塞栓症になりやすい人
羊水塞栓症は、以下のようなケースでなりやすくなるといわれています。
- ・帝王切開を受けた場合
- ・高齢出産の場合
- ・前置胎盤の場合
- ・陣痛促進剤による誘発分娩を行った場合
- ・常位胎盤早期剥離の場合
- ・過強陣痛の場合
- ・鉗子分娩を行った場合
- ・多胎妊娠をした場合 等
羊水塞栓症の治療
羊水塞栓症が疑われる場合の初期治療としては、気道確保、酸素の投与や輸血・輸液等を行い、母体の状態の改善を行うことが一般的です。羊水塞栓症が疑われた場合には、迅速な初期対応を行うことが救命率向上のために必要といえます。
かつては、羊水塞栓症による母体死亡率を80%以上とする文献が存在していましたが、近年では20~40%程度とする文献も存在しており、以前と比べれば、救命される可能性が高まってきていることがわかります。そして、DIC先行型の症状である場合には、適切な抗DIC療法を早期に行えば、救命率は上がると考えられています。
なお、羊水塞栓症の臨床診断基準は、以下の①~③を満たすものとされています。
- ① 妊娠中または分娩後12時間以内に発症した場合
- ② 以下の症状・疾患に対して集中的な治療が行われた場合
- ア 心停止
- イ 分娩後2時間以内の原因不明の大量出血(1500ml以上)
- ウ DIC(播種性血管内凝固症候群)
- エ 呼吸不全
- ③ 観察された所見や症状が他の疾患で説明できない場合
羊水塞栓症の予防
羊水塞栓症を完全に予防することは極めて困難といえます。一般的に羊水塞栓症を発症するのは破水後である場合が多いため、破水後には羊水塞栓症の発症リスクを念頭に置き、母体の管理を注意深く行うこと、早期に臨床的診断を行うこと等が重要とされています。
羊水塞栓症に関する裁判例
緊急帝王切開によって出産した患者が、羊水塞栓症により出血が止まらずに死亡した事案について、高次医療機関への転送時期が争点となりました。
裁判所は、患者のショック指数が高値であったこと、出血が持続していたこと、尿量も低下し、少なくとも乏尿の状態であったこと等から、より早期の段階で産科危機的出血(生命を脅かすような分娩時あるいは分娩後の大量出血)の状態に陥っていたと判断すべきであったとし、医師の転送義務違反(転送の遅れ)が認められました。
そして、適切なタイミングで転送していれば患者を救命し得たと認定され、病院及び担当医師に対し、計約1億2400万円の損害賠償義務が認められました(東京地方裁判所 令和2年1月30日判決)。
この記事の監修
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