CTG(胎児心拍数陣痛図)
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ここ数十年のうちに妊娠出産をした女性であれば、定期受診時、あるいは、分娩時に、お腹にベルトを巻かれ、ベッドサイドの装置から紙(グラフ)が長々と吐き出されるのを見たという記憶があるでしょう。
この装置のことを分娩監視装置といい、分娩監視装置による監視のことを胎児心拍数モニタリングといいます。胎児心拍数モニタリングとは、胎児が健康か否かを評価するために、分娩監視装置を用いて、胎児の心拍数と母親の子宮の内圧の推移を測定することです。
この測定の結果、得られたグラフのことを、CTG(Cardiotocogram、胎児心拍数陣痛図)といいます。
この測定のうち、胎児に負荷をかけずに行うものをNST(Non-stress test)といいます。聞き覚えがあるのは(CTGではなく)NSTかもしれません。
本項では、CTG、胎児心拍数モニタリングについて簡単に説明します。
CTG(胎児心拍数陣痛図)の構成
CTGは大きく上下2段に分かれます。
上段には胎児の心拍数が、下段には子宮の収縮が記録されます。
胎児心拍数からわかること
心拍数は、交感神経・副交感神経系によって調節されています。これらの神経の中枢は、血液ガスの情報や血圧などの情報をもとに、心拍数をコントロールする信号を出しています。
そのため、胎児血中の酸素分圧や酸素飽和度を直接モニタリングする代わりに、心拍数をモニタリングすることによって、胎児の状態(例えば、低酸素状態、アシドーシス)を推定することができます。
CTG(胎児心拍数陣痛図)の評価と対応
(1)CTGの評価にあたって着目すべきは、以下の諸点です。
- ①心拍数基線がどうか【110~160bpmが正常。5の倍数で表す。一過性変動部分を除外して10分間の平均で評価。】。
- ②基線細変動があるか、その程度はどうか【基線の細かくランダムな変動。増加(26bpm以上)、中等度(6~25bpm)、減少(5bpm以下)、消失(肉眼的に認められない)の4つに分類。中等度以外は異常。】。
- ③一過性頻脈があるか【開始からピークまで30秒未満、15bpm以上の増加、15秒以上2分未満で基線に戻る】。
- ④一過性徐脈があるか、(子宮収縮の「山と」の関係で)その種別(早発、遅発、変動、遷延)がどうか【下記(2)】
- ⑤子宮収縮時の胎児心拍数がどうか。
(2)遅発一過性徐脈の種別
一過性徐脈は、子宮収縮(CTG下段の山)と徐脈(CTG上段の谷)の出現時期により、早発、遅発、変動、遷延の4つに分類され、それぞれの状態、原因、評価は下表のように整理されます。
種別 | 状態 | 原因 | 評価 |
---|---|---|---|
早発 | 児頭圧迫 | 圧変化 | 正常 |
遅発 | 胎児機能不全 | 低酸素 | 異常 |
変動 | 臍帯圧迫 | 圧変化 | 正常又は異常 |
遷延 | (様々) | 圧変化・低酸素 | 正常又は異常 |
(3)心拍数基線と基線細変動が正常であり、かつ、一過性徐脈がないとき、胎児の健常性(well-being)が保たれていると判断されます。
(4)これに対し、以下が認められる場合、胎児の健常性(well-being)が障害されているおそれがあると判断されます。
- 基線細変動の消失を伴った繰り返す遅発一過性徐脈
- 基線細変動の消失を伴った繰り返す変動一過性徐脈
- 基線細変動の消失を伴った遷延一過性徐脈
- 基線細変動の減少または消失を伴った高度徐脈
- サイナソイダルパターン など
(5)CTG10分区画ごとの基線、細変動、一過性徐脈の組合せに基づいて、波形レベルが次の5つに分類されます。
- 1(正常)
- 2(亜正常)
- 3(異常(軽度))
- 4(異常(中等度))
- 5(異常(高度))
分娩時は、一過性頻脈は考慮しません。
基線細変動が減少している場合には、心拍数基線と一過性徐脈の関係によって、下表のように波形レベルが分類されます。
一過性徐脈 | なし | 早発 | 変動 | 遅発 | 遷延 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
軽度 | 高度 | 軽度 | 高度 | 軽度 | 高度 | |||
正常脈 | 2 | 3 | 3 | 4 | 3 | 4 | 4 | 5 |
頻脈 | 3 | 3 | 4 | 4 | 4 | 5 | 4 | 5 |
徐脈 | 4 | 4 | 4 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
徐脈(<80) | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
産婦人科診療ガイドライン―産科編2020参照
(6)波形レベル1~5の対応と処置は下表のとおりです。
波形レベル | 対応と処置 | |
---|---|---|
医師 | 助産師 | |
1 | A:経過観察 | A:経過観察 |
2 | A:経過観察 または B:監視の強化、保存的処置の施行および原因検索 | B:連続監視、医師に報告する |
3 | B:監視の強化、保存的処置の施行および原因検索 または C:保存的処置の施行および原因検索、急速遂娩の準備 | B:連続監視、医師に報告する または C:連続監視、医師の立ち会いを要請、急速遂娩の準備 |
4 | C:保存的処置の施行および原因検索、急速遂娩の準備 または D:急速遂娩の実行、新生児蘇生の準備 | C:連続監視、医師の立ち会いを要請、急速遂娩の準備 または D:急速遂娩の実行、新生児蘇生の準備 |
5 | D:急速遂娩の実行、新生児蘇生の準備 | D:急速遂娩の実行、新生児蘇生の準備 |
産婦人科診療ガイドライン―産科編2020参照
(7)分娩中に波形レベル3ないし4が持続する場合、分娩進行速度と分娩進行度も加味し、定期的に「経腟分娩続行の可否」について判断し、「経腟分娩困難」と判断した場合には早期に緊急帝王切開を行います(産婦人科診療ガイドライン―産科編2020参照)。
CTG(胎児心拍数陣痛図)に関する裁判例
【青森地方裁判所弘前支部 平成19年3月30日判決】を紹介します。上記のような波形レベルの評価と対応法がコンセンサスとして示されるよりも前のケースです。
分娩中の低酸素性虚血性脳症により子供が脳性麻痺となりました。裁判所は、母親が分娩室に入室してから分娩までの2時間程度について、胎児に対する継続的なモニタリングをしなかったことに過失があり、この過失がなければ(速やかに吸引分娩・鉗子分娩あるいは帝王切開術等を行って胎児を早急に娩出させていれば)脳性麻痺を回避できたと認定し、合計約1億2500万円(子供の慰謝料2500万円や両親固有の慰謝料各250万円等を含みます。)を認容しました。
この記事の監修
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