手術ミス
協力医の重要性
手術ミスに関する事件は通常の医療事件よりも過失の特定が難しいことが多いです。人体の構造と術式を十分に理解していないと過失の内容の理解自体が困難である上、文献だけでは手術の内容を把握することが難しいからです。患者側としては証拠を収集した上で専門医の協力を得ることが重要になります。
同意書について
手術の前にはリスクを記載した書面に基づいた説明を受けて、同意書を作成していることが多いです。同意書を作成していれば、どのような結果が生じても法的責任がないと考えている方もおられますが、これは誤りです。法的責任には、有害事象に対する責任と説明責任の二種類があり、同意書により免除され得るのは後者に限られます。
また、仮に結果の如何に関わらず法的責任を一切問わないと明記された契約書が存在しても、消費者契約法により無効になる可能性が極めて高いです。
合併症について
「合併症」とは、ある病気が原因となって起こる別の病気という意味と、手術や検査などの後に、それらがもとになって起こることがある病気という二つの意味を持つ言葉です。医療訴訟では特に後者の意味の合併症が問題になります。
合併症には、過失を問われないものも含まれています。手術や検査においては回避困難な有害事象が存在します。例えばIABP(大動脈内バルーンパンピング術)のようにカテーテルが大口径であるため治療法自体に血管損傷の危険性が内包されているものもあります(大島哲ら「医原性血管損傷24例の検討」日本血管外科学会雑誌10巻461~467頁)。法律上の過失は結果回避可能性があることが前提となっていますので、このような合併症が生じても原則として過失は認められません。
他方で、腹腔鏡下胆嚢摘出術における胆管損傷のように「注意深い手術で回避できる」(急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013、166頁。なお、2018年度版では腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応が広がったため同様の記載はない。)ものもあります。このような事案では、法的な過失が認定される可能性が十分にあります。
このように合併症という言葉で表現される事案の中には、法的な過失はないものと、法的な過失があるものが含まれています。
統計情報について
侵襲的な治療の際に有害事象が生じることが珍しい場合には、今回に限ってミスがあったのではないかという方向に判断される可能性があります。合併症が生じる確率が低いことを参考にして過失を肯定する裁判例もあります。例えば、EST術(内視鏡的乳頭切開術)のスコープ挿入時に十二指腸下行脚中央、外側後壁に1cm大の穿孔を生じた事案では、施術の経緯等に加えて「一般的にEST術と同様のERCP術により穿孔が発生する確率が約0.01%と極めて少ないと報告されていることに照らすと、本件においては、EST術を実施したG医師にはスコープの操作上の過失があるものと推認するのが相当である。」(青森地判平成17年10月4日)と判示されています。なお、この青森地判の事案に関してはERCPやESTの合併症は0.01%より高い確率で発生している可能性もあります。
この記事の執筆弁護士
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大阪弁護士会所属
この記事の監修
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東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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