帝王切開

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帝王切開で出産する母親は、1990年では病院で11.2%、診療所で8.3%でしたが、2017年ではそれぞれ25.8%、14%となり、30年ほどのうちに倍増しました(厚生労働省 平成29年(2017)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況)。

本項では、帝王切開がどのような場合に行われるか(適応)、帝王切開をめぐる紛争などについて、簡単に説明します。

帝王切開とは

帝王切開とは、母親のお腹と子宮を切開して胎児を取り出す出産法です。予定して行うもの(予定帝王切開)と、緊急で行うもの(緊急帝王切開)があります。

帝王切開の適応

母親と胎児の一方または双方に何らかの問題があるために、経腟分娩(俗に「下から産む」と言うこともあります。)ができない、または、経腟分娩を待っていられないときに行われます。

帝王切開が行われる(帝王切開の適応がある)のは、例えば以下のような場合です。

  • 帝王切開既往(過去に帝王切開で出産した経験があること)
  • 微弱陣痛
  • 胎児機能不全
  • 胎位異常(骨盤位(逆子)等)
  • 多胎妊娠(双子、三つ子等)
  • 前置胎盤
  • 高齢出産
  • 遷延分娩
  • 妊娠高血圧症候群(PIH)
  • 常位胎盤早期剥離

アメリカでは、帝王切開既往、微弱陣痛、胎児機能不全、胎位異常の適応が帝王切開のうちの85%以上を占めます。

帝王切開の手順

帝王切開術では、妊婦に麻酔をかけて、下腹部を縦か横に切開し、子宮を切開(ほとんどは横切開)して胎児を取り出します。出産後、切開した部分は縫い合わせるか、医療用ステープラー(ホッチキスのようなもの)等を使って閉じます。

帝王切開施行までの時間

帝王切開施行までの許容時間についての国際基準はありませんが、母児のリスクベネフィットを最適化できる時間で帝王切開を開始できるべきです。

日本では、地域の実情に応じて、総合周産期母子医療センターや地域周産期母子医療センターが整備されています。

総合周産期母子医療センターは、機能として、母体又は児におけるリスクの高い妊娠に対する医療及び高度な新生児医療等の周産期医療を行うことが期待されています。他方の地域周産期母子医療センターは、周産期に係る比較的高度な医療行為を行うことが期待されています。総合周産期母子医療センターのほうがより高位(高次)の施設です。

このうち地域周産期母子医療センターでは、「帝王切開術が必要な場合に迅速(おおむね30分以内)に手術への対応が可能となるような医師(麻酔科医を含む。)及びその他の各種職員」の配置が望ましいとされています。

もちろん、実際の時間は個々のケースによって異なります。

帝王切開のベネフィット(メリット)

帝王切開のベネフィット(メリット)は、陣痛を避けつつ、短時間のうちに、(経腟分娩に危険を伴うと予想される)胎児を安全に出産させられる(可能性が高い)ことです。

帝王切開のリスク(デメリット)

他方で、お腹、子宮を切開する(外科的な侵襲がある)以上、一定のリスクはあります。母体に関しては、例えば、外科的侵襲に伴う疼痛、瘢痕(傷跡)、臓器の癒着、血栓症などです。

TOLAC(VBAC)

過去に帝王切開を経験したことのある妊産婦が今回の分娩で経腟分娩を試みることを、TOLAC(Trial of laber after cesarean delivery、トーラック)といい、その試みが成功した場合をVBAC(Vaginal birth after cesarean delivery、ブイバック)といいます。ベテランの産科医は、(帝王切開既往妊婦が)経膣分娩を試みること(trial)を指してVBACと呼ぶことも少なくありません。

TOLACにはベネフィット(メリット)がありますが、子宮破裂のリスクが高まることが最大のリスク(デメリット)です。「重要なことは,帝王切開後試験分娩を施行した場合,失敗例において成功例よりも5倍の合併症のリスクを被ることになるということである.」、「帝王切開後試験分娩では選択的反復帝王切開よりも低酸素性虚血性脳症(Hypoxic ischemic encephalopathy:HIE)の発生率も高いと考えられている。MFMUの研究では,正期産でのHIE発生率は帝王切開後試験分娩で46/100,000,選択的反復帝王切開では一例もなかった(Landon,2004).」(「ウイリアムス産科学 原著24版」(南山堂、2015):730頁)などとされています。

TOLACを行う場合には、子宮破裂時の緊急帝王切開に備えること、いざというときには直ちに緊急帝王切開を行うことが要求されます。

TOLAC(VBAC)に関する裁判例

【福島地方裁判所 平成20年5月20日判決】は、帝王切開既往のある妊婦が経腟分娩を試みたところ子宮破裂が発生し、産まれた子供が重度の脳性麻痺になり、約5年後に死亡した事案において、TOLACの適応を認めながらも(経腟分娩を試みること自体は適当であったとしながらも)、分娩経過を監視すべき注意義務、または、緊急事態に対応するための準備をしておく注意義務のいずれかが履行されていれば結果を回避できた可能性が高いと認定し、合計約7300万円(うち父母の慰謝料として各1200万円)を認容しました。

この記事の監修

弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員  医学博士 弁護士 金﨑 浩之
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員医学博士 弁護士 金﨑 浩之
東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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