抗菌薬投与後に患者をアナフィラキシーショックで死亡させたことについて、2500万円で訴訟上の和解が成立した事例
事案の概要
患者さん(50代、男性)は、被告診療所で抗菌薬投与後にアナフィラキシーショックになりました。被告診療所は、患者さんのアナフィラキシーショックに対して、何らの治療行為もせずに、高次医療機関に救急搬送しましたが、患者さんは搬送先の病院で死亡しました。アナフィラキシーショックは、数分単位で病態が進行していくため、緊急処置としてアドレナリン(ボスミン)の投与をするのが通常ですが、救急搬送までにアドレナリン投与がなされなかったために、治療開始が30分以上遅れました。
この事案を最初に受任したのは、他の法律事務所の弁護士さん(A弁護士さん)でした。A弁護士さんは、勝訴の見込みありとして、直ちに提訴したそうです。そして、A弁護士さんは、注意義務として、アナフィラキシーショックに対処するため、様々な器具、薬品を準備すべき義務という注意義務を設定していました。これに対し、被告診療所は、診療所レベルでそのような器具、薬品は普及していないという反論を行っていました。これに対して、A弁護士さんは、弁護士会照会を利用して、器具、薬品の普及の程度を調査していたようでしたが、調査先の医療機関から何らの回答もなされなかったため、立証に苦労していた様子です。
このような訴訟経過を経て、裁判所は、被告診療所に法的責任なしとの心証を得たようで、裁判所から100万円程度の見舞金での和解を示唆されたそうです。納得できない原告(遺族)は、このままでは敗訴する可能性が高いと考え、弁護士を替えることにしました。そして、当法人の弁護士が受任し、途中からこの事件を引き継ぐことになりました。
弁護士の方針・対応
A弁護士さんが辞任し、当法人の担当弁護士が代理人となったため、訴訟戦術の練り直しです。そもそもアナフィラキシーショックにおいては、アドレナリンの投与が重要です。アナフィラキシーショックでは、末梢血管が拡張するため、急激に血圧が低下してショック状態に陥ります。したがって、アナフィラキシーショックを発見したら、速やかにアドレナリンを投与するというのが、アナフィラキシーショックに対する治療の基本中の基本です。
そして、アドレナリンが功を奏さなかった場合には、グルカゴンという薬が第2選択薬として考慮されます。そこで、アナフィラキシーショックに対して、アドレナリンを速やかに投与すべき義務という内容の注意義務を構成しました。アナフィラキシーショックは、分単位で病態が進行していくので、迅速な対応が必要なのです。
これに関しては、医学文献で立証活動を行いました。また、期日間に別件でお世話になった協力医と面談し、因果関係(予後)に関する医学的文献を教えてもらい、それを利用した立証活動を行いました。なお、この事案では、意見書を作成してくれる協力医を確保できなかったため、立証活動の中心は、医学文献です。
裁判所が、被告診療所に法的責任があるとの心証を形成してくれなかったら、鑑定を申し立てる必要があると考えていました。
結果
当初、裁判所としては、被告診療所の過失に疑問を持ち、また、死亡との間の因果関係についても否定的に解していたようであり、病院側に責任がないことを前提に、和解の可能性を探っていたようでした。
ところが、当法人の担当弁護士による訴訟活動の結果、被告診療所側に法的責任があるとの心証に変わり、有責前提の和解交渉になりました。そして、最終的には、2500万円で訴訟上の和解が成立したのです。逆転的な勝訴的和解でした。医学文献による立証活動が奏功し、鑑定も実施せずに解決することができました。
この事件を通じて我々が実感したことは、どこに主張・立証の重点を置くかで、裁判所の心証が大きく変わりうるということです。特に、注意義務(過失)の設定次第で、立証方法やその後の心証は大きく変わるという点です。また、医学文献だけでもかなりの程度を立証でき、勝訴的な和解をまとめることが可能であることを物語る事例です。意見書はあったほうがベターですが、それがないと勝てないわけではないのです。
協力医の意見書に依存した訴訟活動をする弁護士さんは少なくありませんが、意見書の確保には限界があります。医療訴訟に携わる弁護士には、自ら医学文献を読み、かつ理解し、効果的に証拠として提出できるだけの手腕が求められます。協力医が弁護士の代わりに主張書面を書いてくれるわけではないからです。協力医は、あくまでも弁護士のサポートをしてくれるだけです。
この記事の監修
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東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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