インフルエンザの入院患者の敗血症を見落としたことにより患者を死亡させたことについて、2000万円で訴訟上の和解が成立した事例
事案の概要
患者さん(女性、60代)は、季節性インフルエンザに罹患しましたが、二次性の細菌性肺炎を合併し、入院となりました。肺炎に対しては抗菌薬が投与されましたが、その数日後に容態が急変し、呼吸不全・循環不全に陥って死亡しました。
患者さんの死亡について不審に思った遺族が解剖を希望したため、この患者さんに対しては、病理解剖が実施されました。解剖の結果、患者さんの直接の死亡原因が敗血症であることが分かりました。遺族は、患者さんが敗血症に罹患して死亡したという説明を病院から聴いていなかったため、さらに不信を強めて当法人の弁護士に相談することになりました。
弁護士の方針・対応
医療事故で患者さんが死亡したケースであっても、多くの症例では病理解剖が実施されていないため、医療訴訟では、死亡原因自体が争われることも珍しくありません。この事案では、幸いに病理解剖が実施されていたため、病院側が死亡原因を争ってくることはありませんでした。
協力医と協議した結果、病院が敗血症と疑われる所見、具体的には、臨床当時使われていた敗血症の診断基準(SIRS基準)を満たしていたのに、それを見落としていたことが分かりました。病院は敗血症の診断が遅れたわけではなく、そもそもその疑いすら持たず、死因が敗血症であることは、死後の病理解剖で分かったことでした。その意味では、病院側の過失は重大であると考えられます。
季節性インフルエンザ自体の死亡率は決して高くありませんが、これに細菌性の二次性肺炎が合併することは珍しくありません。特に高齢者(65歳以上)の場合、この肺炎が重症化しやすく、最悪の場合には死亡するに至ります。そして、肺炎は、重症感染症である敗血症の原疾患として最も多いとされているので、患者さんの肺炎が敗血症に進展する可能性は当然想定しておくべきだと言えます。
勝訴の見込みが高いと考えた当法人の担当弁護士は、提訴しなくても、話し合いで示談できる可能性も十分にあると考え、あえて提訴せずに病院側と交渉することにしました。しかし、後述するように、これが紛争の長期化の原因になってしまいました。
結果
病院側は、特に責任については強く争ってはきませんでしたが、交渉は難航しました。最初に病院側が提案した示談金は200万円でした。このような金額での示談などありえませんので、当然こちらは病院側の提案を拒絶しましたが、病院内で協議するということで、ここから数ヶ月間交渉は塩漬け状態になりました。
その数ヶ月後に病院から再提示された示談金は500万円です。このように、院内での協議期間を間に挟みながら、再提案が繰り返され、少しずつ示談金が上がっていくのですが、病院側の最終提案は1000万円でした。このような金額に対してこちらが抗議しても、示談金額がこれ以上増えることはありませんでした。
本件の事案の性質を勘案しても、1000万円という示談金額は低すぎると考えたため、提訴に踏み切ることにしました。交渉には、約2年を費やしましたが、残念ながら交渉は決裂してしまったのです。
提訴してからその約2年後に、2000万円で訴訟上の和解が成立しましたが、この事案の最大の反省点は、交渉に2年も費やしてしまったことです。
交渉に長い年月を費やしても、提訴すれば、一からやり直しです。これまでの交渉過程を裁判所が引き継ぐということはありません。相手方の病院は、過失も因果関係も全面的に争ってきたので、裁判所もすぐに心証を形成するには至らず、裁判所を説得するのに、結局、2年を費やしています。交渉期間と合わせると、紛争解決に要した時間は、約4年ということになります。最初から提訴していれば、2年で解決できたでしょう。
幸いにしてこの事案は、こちらにとってかなり勝ち筋であったため、被告病院の関係者に対する証拠調べ(証人尋問等)も行わず、また鑑定も実施せずに和解が成立しましたが、もし証拠調べや鑑定を実施していたら、紛争解決までの最終的な時間は5年を超えたと思います。交渉に馴染む事案なのか、それとも速やかに提訴したほうがよい事案なのかは、慎重に判断したいと思います。
この記事の監修
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東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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