健康診断で肺がんが見落とされた結果死亡した患者について、2300万円の民事調停が成立した事例
事案の概要
患者さん(40代・男性)は、勤務先の健康診断として、相手方医療機関の運営する検診を長年受診し、胸部レントゲン検査で異常なしと診断されてきました。しかし、最終検診から1年2カ月後、肺がん・ステージ4で、手術はできないと診断されました。その後、抗がん剤治療を行いましたが、患者さんは肺がんの診断から約3カ月後に死亡しました。
弁護士の方針・対応
本件のような集団検診の場合、健常人を対象として撮影された大量のレントゲン写真を読影医師が短時間で確認するものであるという集団検診の特殊性から、画像上の陰影を異常と判断しなかったとしてもやむを得ないなどと、相手方が過失を否定する主張してくることが多くあります。そこで、本件では、あらかじめこのような主張の説得力を失わせるために、協力医に、レントゲン画像における陰影の有無、それがなぜ異常陰影といえるか詳細に確認しました。
その結果、①最終検診で撮影されたレントゲン画像(レントゲン画像2)及びその2年前に撮影されたレントゲン画像(レントゲン画像1)の2つのレントゲン画像について異常と指摘すべき陰影があること、②レントゲン画像1の陰影は肋骨の陰影の重なり部分にある陰影だが、重なりより上部でも濃度上昇があるため異常な陰影と指摘すべきものであること、③レントゲン画像2は肋骨に重なるように8×13mmの結節状の濃度上昇があることから異常な陰影と指摘すべきものであること、を明らかにすることができました。
また、癌の見落とし事例の場合には、因果関係として、見落としがあった時点でのがんの病期を前提として見落としがなかったら、患者さんが実際に死亡した時点で死亡していなかったといえることが必要となりますが、仮定的な判断であるため、因果関係の立証には困難が伴います。本件では、協力医からも因果関係を肯定する意見が得られたほか、当所がこれまで有している医学的知見から因果関係についても立証可能だと判断しました。
調停においては、上記の陰影の特徴、異常な陰影と指摘すべき理由を詳細に指摘し、因果関係についても主張立証を尽くしたところ、相手方代理人も、レントゲン画像2については異常と指摘できる陰影ではないかとの見解を述べるに至りました。その結果、調停の申立てから約1年後、2300万円という相手方有責を前提とした額で、調停が成立しました。
結果
あらかじめ相手方の主張を予測して、レントゲン画像について協力医から詳細な意見を聞き、その意見を調停において指摘したところ、調停の申し立てから1年という早期解決で、相手方有責を前提とした2300万円の調停を成立させることができました。訴訟では、健康診断における肺癌の見落としは、原告の請求棄却事例(患者側完全敗訴)が多いので、民事調停を利用したことが奏功したのかもしれません。
この記事の監修
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東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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